台所とコーヒーと私
真夜中の台所でひとり私はカレーを温めていた。
2時間前に「今日はカレーだ!」というぶっきらぼうなメッセージが嫁さんから届いたので私は一目散に会社から飛び出して帰宅したのだった。
「今日のカレーはなかなかの出来だな。」
私が作ったわけではないのだがそう思った。
「明日の朝ご飯もカレーが食べられるな。ラッキー」とカレーライスをもそもそ頬張りながら呟いた。一晩置いたカレーは当日のそれとは一味違ってなんとも格別である。そう、私が無類のカレー好きであることは家庭内で有名な話だ。
サイドメニューとしてエビマヨが置いてあった。それもゆでたまごが入っているタルタルソース風のエビマヨであった。なかなか美味しい。
「クックパッドに投稿したら斬新かもしれない。」
私が作ったわけではないのだがそう思った。
平和な夜はそう長く続かなかった。
私は一息つくためにアイスコーヒーを作った。そして食べ終わった食器を軽く水洗いして食洗機にセットしスタートボタンを押した。勝手に食器が洗われるなんて便利な世の中だと思った。
そしてコーヒーを飲もうとコップを手にしたその時、
「アッー!」
プラスチック製のコップは90°傾き勢いよく台所のシンクの上に横向きで落ちた。やがて氷は飛び散り、中身のコーヒーは台所の隅々まで流れていった。
「ブレンディのアイスコーヒーがー。原田知世さんごめんなさい!!ひとときもホッとできなくてごめんなさい!」
謝ったところでアイスコーヒーは戻って来ない事は分かっていた。仮に戻って来たとしても台所に流れたコーヒーを再び飲もうと私はは思わない。薄情かもしれないが人間とはそういうものである。
荒れ狂う珈琲(コーヒー)の海、その荒波に私は呑み込まれそうになった、精神的な意味で。
5秒後、私は雑巾を手にして一面に広がった珈琲(コーヒー)海を片付けることにした。
雑巾にコーヒーを吸わせて流しに送り込む作業を幾度か繰り返したことで再び平和な夜が訪れたのだった。
まとめ
「晩ごはんはカレーだった。」
「そのあとコーヒーをこぼした。」
以上。